今まで給与天引きで意識することなかった社会保険料(年金+保険)を、退職後は毎月支払う必要がある。住んでいる自治体や取り崩し方にもよるが、何もしないと、ざっくり国民年金年20万、国民健康保険は年70万、加えて、資産取り崩しに伴う税金が90万程度かかる。退職後の社会保険料を最適化するための振る舞いについて考察する。
生活費の取り崩し
給与収入がない状態で暮らしていくためには、毎年生活費用に資産を取り崩していく必要がある。例えば年間450万円取り崩して生活費に当てる場合、資産売却に伴う所得税・住民税、社会保険料がかかってくることになる。
源泉徴収ありの特定口座の場合、450万の所得に対して20%の税金90万を天引きされて終わりとするか、450万の所得を確定申告し、各種控除を使って天引きされた20%の税金90万を一部取り戻すかの選択肢を持つことができる。
各種控除とは、所得税の基礎控除や扶養控除に始まり、社会保険料控除、iDeco掛け金、ふるさと納税や、外国税額控除、配当控除等が利用できる。450万程度の所得であれば、確定申告により90万の税額を30%の27万程度程度とすることが可能。また証券会社間の配当と売却損の損益通算も可能になる。
所得税・住民税だけ考えた場合、確定申告をして各種控除を適用したほうが有利である。ただし、申告すると、社会保険料の計算金額に含まれてしまうため、社会保険料の金額にも影響が出てくる。
退職後に取りうる身分
退職後、取りうる選択肢は、以下。①国民年金+国民健康保険に加入する、②国民年金+勤務先の健康保険組合の任意継続、③妻の扶養に入る、④法人を立ち上げ給与所得者となる、⑤別の会社へ就職する
⑤なら、その会社の厚生年金に入る以外の選択肢は取れない。
失業手当受給中は、③と④は不可。退職直後は①と②のいずれかを選択することになる。平均年収より多くもらっていた場合多くの場合は②が適切。細かいことを言うと失業手当受給までの2ヶ月の待期期間は③も利用できそうだが、扶養に入ってしまうと②はもう使えず、失業手当受給中①となり膨大な保険料を払うことになってしまう。
失業手当受給完了後〜退職後2年までの間は、①②③④のいずれも可能。
退職後2年経過後は、任意継続が利用できなくなるため、①③④から選択する必要がある。
妻が退職すると、③が使えなくなるため、①④から選択する必要がある。
①国民年金+国民健康保険
何もしないとこの身分となる。国民年金は年198,240円、国民健康保険は前年度総所得に対して11%+1名76,300円(自治体による)。国民健康保険の前年度総所得とは、所得税・住民税とは異なり、株式売却駅等の申告分離課税の金額も合算される。年間450万取り崩し申告する場合、国民健康保険は55万程度になる。
確定申告で申告する場合、国民年金20万、国民健康保険55万、所得税住民税27万で、年102万程度。
申告不要制度で源泉完結の場合、国民年金20万、国民健康保険8万、所得税住民税90万で、年118万。
ただし、退職年と退職翌年に限っては退職前の給与所得が存在するため、確定申告をしようがしまいが、国民健康保険だけで、100万近くになることもあり圧倒的に不利(前年の給与年収の11%)。退職年、退職翌年は、合計で200万以上かかってしまうことも。
②国民年金+健康保険組合任意継続
国民健康保険は、前年度の年収に対して計算されるため、退職年と退職翌年は①の国民健康保険は一般的には不利。多くの場合、前職の健康保険組合の任意継続が有利。
健康保険組合にもよるが、一般的に任意継続保険料は、健康保険組合全体の平均給与をベースに計算される。つまり、退職時に会社の平均より給料をもらっていたのであれば①より有利になる。毎年の任意継続保険料は健康保険組合のWebサイト等に掲載されていることが多い。健康保険組合にもよるが、個人の所得にはよらずに年間70万程度。退職後は、これまで会社が半額負担していた分を自分で出さなければならなくなるため、今までの給与明細の天引き分よりは多くなることもある。
任意継続は退職後2年間のみ。一度やめるともう戻れないため、退職直後は任意継続一択。
健康保険の任意継続は、健康保険組合の平均給与によって保険料が決まるため、国民健康保険とは異なり、株式の売却による個人の所得金額は考慮されない。つまり、任意継続の期間は、確定申告をしても健康保険料が増えないため、株式の売却益は確定申告を行い控除により税金を取り戻すのが有利。
③妻の扶養に入る
妻が働いている場合、妻の健康保険組合の被扶養者となることができる。被扶養者と認定されると、国民年金および健康保険料を払う必要がない。ただし将来の見込み収入が130万以上とみなされると扶養から外れてしまう。
被扶養者として認定されるには、将来の年間見込み収入(✕所得)が130万以内であること。失業保険受給中は、失業保険の月額を12倍した金額が130万を超えるため扶養に入ることができない。退職年、失業保険受給完了年は、離職票等を提出することで、将来の年間収入見込みがゼロとみなされるため、前年の年収が多くても扶養に入ることができる。翌年以降は、前年度の確定申告書、所得証明書を以て今年度の収入見込みとみなされる。
退職・失業保険受給完了後1年間は、前年度の所得証明書は不要なはず。翌年以降は確定申告書や課税証明書等を提出して年収130万以下であると証明する必要がある。
申告不要制度を活用すれば、前年の確定申告で450万の所得を計上する必要がないため、扶養であり続けられる。失業手当受給期間完了後の年は、扶養加入一択。翌年以降は、扶養であり続けるべきかどうかは④との比較となる。
④法人を立ち上げ給与所得者となる
自身で法人を立ち上げ、自分自身に最低給料を支払う。厚生年金、健康保険に加入することになる。
会社負担分も実質自分で支払わなければならないため、最低給与額である月88,000円以下の厚生年金は国民年金とほぼ同様年20万程度。健康保険は月額給与額をベースに保険料が決定する。最低給与額である月63,000以下の健康保険料は、会社負担分あわせて年8万円。これに加え法人住民税7万円と、法人決算のための会計ソフト等の費用5万円程度がかかる。給与所得者になれば株式売却益は確定申告の控除を使っても社会保険料は増えない。
③の扶養であり続けた場合、申告不要制度で、国民年金0、国民健康保険0、所得税住民税90万。
④の法人設立の場合、厚生年金20万、健康保険8万、法人維持費12万、所得税住民税27万。5万程度のふるさと納税が可能になるため、実質合計62万。
①の国民年金の場合、年間120万程度。
これらのことから、法人維持のための事務手続きが必要にはなるが、妻の扶養でいつづけるより、法人設立が年間約30万ほど有利。加えて確定申告による損益通算による税金圧縮の余地もあり自由度が高い。
妻が退職した後の考え方
妻が退職すると、③は使えず、①と④しか選択できなくなる。
①は、これまでの計算に加え、妻分の年金、保険も考慮する必要が出てくる。④の場合には、妻を自身の健康保険の3号被保険者にすることで、妻の年金、保険を支払わなくて済む。
①で確定申告する場合、国民年金40万、国民健康保険62万、所得税住民税27万で、年129万程度。
①で源泉完結の場合、国民年金40万、国民健康保険5万、所得税住民税90万で、年135万。
④の場合、厚生年金20万、健康保険8万、法人維持費12万、所得税住民税27万。ふるさと納税-5万で、合計62万のまま。
年間70万程度の差が出てくるため、妻が退職したら④の法人作成一択。
60歳〜65歳の考え方
60歳を超えると年間20万の国民年金保険料の支払が不要になる。しかし給与を得ている場合、60歳を超えても国民年金に相当する年間20万相当の厚生年金保険料は70歳まで発生する。
夫婦2名とも収入がない場合には、自治体にもよるが国民健康保険の定額部分は30%になる。つまり一人最低76,300円かかっていた国民健康保険料が、2名で45,700円となる。
また、60歳からIDecoの取り崩しが可能になる。iDecoは退職所得と公的年金雑所得を併用して取得できる。退職後10年経過していたら退職所得として500万、年間103万x5年まで無税で取り崩せる。5年間で割ると、年間200万を無税で取り崩せる計算となる。このことから今まで450万取り崩して税金を発生させていた場合、課税取り崩しは250万で済むことになり20%の税金は50万となる。
①で源泉完結の場合は、年金0+2名分の国民健康保険料5万+所得税住民税50万、合計55万
④で確定申告ありは、年金20万、保険料8万、法人維持費12万、所得税住民税15万、ふるさと納税3万で、合計52万。
まだ法人のほうが有利だが、ほとんど差はなくなる。
国民年金の未払期間がある場合には、60歳〜65歳の間に任意納付を行うことができる。基礎年金が満額に満たない場合には、国民年金に加えて付加保険料を払うことで年金の増額ができる。
65歳以降の考え方
65歳から年金受給を始める。共働き夫婦の合計年金を320万とすると、450万だった必要課税取り崩し額は130万となり、所得税住民税は26万。
また、65歳から介護保険は健康保険に含まれない介護保険1号保険者となり、計算式が変わり個人所得に応じて保険料が決まるようになる。65歳以上の介護保険は所得がある場合には一人年間10万程度かかる。分離課税所得も含まれるため、法人化のメリットが半減する。
①で源泉完結の場合、年金0+保険料4万+介護保険4万+所得税住民税26万で、合計34万。
④で確定申告ありは、年金20万、保険料7万、介護保険15万、法人維持費12万、所得税住民税8万で、合計62万。
①の源泉完結が逆転し、年間30万、5年間で150万①が有利となる。
70歳~75歳は、厚生年金積立部分の20万が不要となるが、それでも①のほうが有利。65歳までに法人を廃業し夫婦ともども国民健康保険へ移行し、源泉完結する運用に切り替えるべき。
75歳を超えると、後期高齢者制度に移行し、給与所得者だろうがなかろうが個人の所得総額をベースに計算されるようになる。このため常に申告不要制度を利用するのが正解となるため、法人メリットは完全になくなる。
また、この齢になると、医療費もかかり始めてくることが想定される。源泉完結により非課税世帯となれば、医療費の自己負担分や高額療養費の上限も下がり、医療費が節約できるようになる。加えて認知等のリスクも出てくるため、早めに法人は畳むべき。
法人設立のメリット
上記考察により、④の法人設立は、妻が働いている間は年30万、妻が退職すると年70万のメリットがある。また、60歳になるとメリットがほぼなくなるため、現在の年齢から60までの間を考えればよいことになる。
例えば現在50歳であれば、所詮10年、10回分の確定申告で節税するかどうかである。
例えば、妻が55まで働くケースで、すぐに法人を設立すると、5年x30万、5年x70万で、500万の節約と損益通算の柔軟性が手に入る。妻も即退職する場合は全体で700万の節約となる。
この700万が法人作成による残り人生の節税総額であり、引き換えに法人維持のため、10年間毎月・毎年の事務作業が発生する。700万を誤差として考えられるのであれば法人設立は行わず、最終形態である①の源泉完結型で運用してもよい。
投資誤差として考える人も、法人設立を自己学習や趣味として行うという考え方もある。
現時点での社会保険戦略のまとめ
退職前に放送大学に入学し学生となっておく。
退職後は、前の会社の任意継続制度を利用し、国民年金は学生納付特例で猶予する。
転職活動をしながら失業手当を受給。転職できたら転職先の厚生年金に入る
就職できず失業手当が切れてしまったら、失業手当受給完了の書類を以て妻の会社の扶養に入る。
次の確定申告時に確定申告還付金が40万を大きく超えることを確認して確定申告して所得を確定。次の妻の健康保険組合の扶養認定継続確認は通らないことになるため、それまでに法人を設立する。超えなかったらその年は源泉徴収で完結させ所得をゼロとし翌年も扶養を継続する。次年度の確定申告で再度確認する。
妻が退職したら、妻を自身の会社の扶養に入れることで厚生年金・健康保険の3号被保険者とする。
60歳を超えたら法人を廃業し、夫婦で国民健康保険に入り源泉完結で確定申告不要運用に入る。iDecoの受け取りを開始し、未納期間がある場合には、国民年金の任意加入制度を使い、付加保険料を納める。
65歳から年金を受け取る。75歳から後期高齢者医療保険に変わる。
コメント