ここまでの手続きで母の生活に必要なお金まわりの手続きは完了しているはずである。このあとは時間のかかる相続関連の手続きを進めていく。相続放棄の期限が死亡から3ヶ月以内のため、これらの作業はそれまでに終わらせておくのが良い。
出生から死亡までの父の戸籍謄本の取得(本籍地の役所)
相続財産に相当する、銀行口座・証券口座・自動車・不動産の名義変更には、「出生から死亡まで」の連続した戸籍謄本が必要。これが一番時間かかるため早期に手を付ける。
戸籍謄本を取得するには、本籍地の住所と筆頭者の氏名の指定が必要。まずは、父の現在の本籍地の役所に筆頭者父で、「出生から死亡まで」と指定して戸籍を要求する。
父は、結婚して戸籍の筆頭者になるが、生まれたときは筆頭者祖父の戸籍に子供として乗っていたはずである。そのため父の出生から死亡までの戸籍は、少なくとも結婚前の筆頭者祖父の戸籍が必要になるはずである。結婚した際に、同じ役所に本籍地を設置していた場合、「出生から死亡まで」のオプションを指定して父の戸籍を請求すると、結婚前の筆頭者祖父の戸籍も同時に取得できる。
ただし、父が生まれてから本籍を別の市区町村に移動した場合、現在の本籍地の役所では完結せず、転入前の市区町村へ改めて戸籍の申請が必要になる。
現在の本籍地にまず出生から死亡までの父の戸籍を要求し、戸籍が送られてきたら戸籍に書いてある転入元の市区町村に対して再度出生から死亡までの戸籍を要求する、これを父が生まれたところまで繰り返して請求する必要がある。また、結婚前の戸籍を取得するには、筆頭者は父ではなく、筆頭者祖父を明示的に指定して戸籍を要求する必要がある。
市区町村に郵送で依頼〜送付までおおよそ1〜2週間かかる。送られてきた戸籍を確認し転入元の市区町村に再度依頼をかけなければならないため、さらに1〜2週間かかる。これを繰り返すためこの戸籍の取得作業が一番時間がかかる。
原則論としては父の出生が記録されているときの本籍地まで遡って取得する必要があるが、実務上は、生殖可能年齢(15歳)まで遡れば法務局は受け付けてくれるようである。
ただし、これは不動産相続登記の例外であり、法定相続情報証明制度単独で申請した場合には厳密に出生時の本籍まで遡る必要があるようである。不動産相続登記と法定相続情報証明を同時に申請した場合には生殖可能年齢まで遡れば良いようである。
住民票、住民票除票、母の印鑑証明の取得(父の住所の役所)
死亡届から1週間くらい経過すると、父の死亡の事実が住民票に反映される。今後住民票には父は乗らなくなる。この証明のため、通常の住民票の他に、住民票除票というものを取得する必要がある。
父死亡1週間以降後に、母を世帯主となった住民票、父が住民票から除かれたという住民票除票、母名義の印鑑証明書を取得する。
子の住民票、印鑑証明、戸籍謄本の取得(子の住所、本籍の役所)
母だけでなく、相続人全員の準備が必要。相続人として、自身の最新本籍地の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書を取得しておく。実印がない場合には実印を作った上で印鑑登録して印鑑証明を取得する。相続人となる子どもたちへ連絡し、準備を始めてもらうよう依頼する。
相続人の戸籍は前述の出生から死亡までを遡る必要はなく、現在の本籍地の戸籍があれば良い。
ざっくり相続財産の総額を把握する
相続財産が一定額を下回る場合には、相続税の申告自体が不要。つまり精緻に相続財産を時価評価し財産目録を作成する必要すらない。まずは、相続財産の全体金額をざっくり掴み、精緻な計算が必要かどうかを判断する。
相続税の基礎控除額は、3000万+600万x相続人の人数。つまり妻と子供2名の場合には、4800万までは非課税となり申告自体不要。この金額を明らかに超えないのであれば財産目録の作成自体不要。超えるかどうか微妙なラインであるときは、真面目に相続税の計算を行う必要がある。
銀行口座、証券口座、不動産、自動車の総額がこれを超えないかどうかの当たりをつける。きちんと時価評価額を計算するには、土地建物の評価額は路線価や固定資産税評価額から計算、自動車は中古ディーラ等に見積依頼を出す必要がある。あきらかに超えないのであれば、精緻な計算や根拠は不要なためディーラへの見積もりも不要。
ちなみに財産目録は、相続人が遺産分割協議を行う際の参考資料でしかなく、相続税申告をする場合似さえ公式に作成・提出義務のある書類ではない。また、遺産分割協議書に通常、金額は記載しない。遺産は全部母に相続させ子どもたちは不要、という合意が取れているのであれば、金額を精緻に書き出す必要すらない。
ざっくり相続の方針を合意する
遺産が多くない場合、通常父の遺産は全部同居の母へ渡すのが自然である。この時点で相続税基準価格未満であれば、将来母が亡くなった場合に備えてあらかじめ子孫に渡しておく必要すらない。この方針で問題ないかどうかを兄弟姉妹へ確認する。
なお、だったら全員相続放棄すればという考え方もあるが、子である兄弟姉妹全員が相続放棄をすると、第2順位、第3順位の祖父母や父の兄弟姉妹に相続権利が発生してしまうため、面倒になる。父に借金がないのであれば、相続放棄の手続きは行わず、遺産分割協議で全遺産を母に相続するという合意を行う方が良い。
一方で遺産分割協議は、相続人の間の契約であり、第3者である債権者には対抗できない。つまり、隠れ借金があとから判明した場合には、債権者は遺産分割協議での合意内容に関わらず、法定相続割合に基づき、相続人に返済を迫ることができる。
借金は相続せずにプラスの資産だけを相続する限定承認という制度もあるようだが、手続きが極めて煩雑で時間もかかり、素人が利用するのは現実的ではない。事例が少なく司法書士や弁護士へ依頼するにしても専門のところに依頼する必要がある。
一応、あとから借金が判明した場合、相続人はそれを知ってから3ヶ月以内に再度相続放棄が行えたという判例もあるようだが確実ではない。
相続人としてはのリスクはあるが、自分だけよければよいという相続放棄という選択肢を取るのではなく、母や兄弟姉妹とリスクを共有するのが家族としての考え方ではないだろうか。
遺産分割協議書の作成
遺産の相続先は全部母にします、という旨を記載した遺産分割協議書をword等で自分で作成する。この協議書は不動産登記、自動車名義変更、銀行口座、証券口座の移管に利用する。全てを母に相続させるのであればその旨1行で記載すれば良く資産明細の記載は不要。金額も書く必要はない。
記載したら、相続人全員の実印を押して完成。遠方に住んでいる相続人がいる場合には、捺印のために遺産分割協議書の原本を郵送でやり取りする必要がある。
法定相続一覧図の作成
相続人の関係を表した、法定相続情報一覧図を自分でexcel等で作成する。テンプレートは法務局からダウンロードできる。相続人の住所は記載は任意ではあるが、書いておいたほうが良い。
法務局への事前相談および申請(法務局)
必要な書類が全部揃ったら、法務局へ電話をし、相談予約を取り付ける。
相談内容は、相続に関わる「法定相続情報証明制度の申請」と、「不動産登記申請」の2点。
相談は予約が必要。相談なく申請すると、書類不備があった場合に、手戻りが発生し1つのミスごとに1週間ロスすることになるため事前相談はしておいたほうが良い。
これまで集めた、遺産分割協議書、法定相続一覧図、父の出生から死亡までの戸籍謄本、父の住民票除票、相続人全員の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、不動産権利証等を持って法務局の相談に向かう。
相談時に、申請に必要な資料が全部揃っているか事前チェックをしてくれる。各種添付資料は、手続き後返却してほしいと伝える。
必要な申請書等も、相談の中で一緒に作成してくれる。法定相続情報証明の部数を聞かれるが、自動車、に加え、各金融機関の数だけ取得する。
法務局へ必要書類を添付して申請すると、法務局で資料のチェックを行い問題なければ1週間後に法定相続情報一覧図が認定される。申請したその日に即時に処理されるわけではない。1週間後に法務局に取りに来るか、郵送してもらうかを選べる。
自動車・自賠責の名義変更
遺産分割協議書、印鑑証明、相続情報一覧図を添付して、陸運局へ申請する。また合わせて自賠責の名義変更も行う。
銀行口座・証券口座の移管
遺産分割協議書、印鑑証明、相続情報一覧図を添付して、各金融機関へ申請する。定期預金は解約せずにそのまま相続人へ名義変更することも可能。
ゆうちょ銀行に関しては、まず通帳だけ持って窓口に行き相続の相談を行う。その1週間後郵送で手続きに必要書類はなにかが伝えられるようである。ゆうちょ以外の金融機関は、必要書類を持って窓口に行けば必要書類を受け付けてくれる。
金融機関に相続の相談をすると、そのタイミングで口座は凍結され、以降現金を引き出すことができなくなる。
相続税申告
あきらかに基礎控除額未満であれば、相続税申告は不要。相続人も含め特に手続きなし。
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